新商品・季刊 アンソロジスト | ブックジャケット | スターターキット |
作品リフィル あ行 | 作品リフィルセット | 作品リフィル 詩歌 |
作品リフィル か行 | 芥川龍之介 | 太田靖久 |
作品リフィル さ行 | 織田作之助 | 徳田秋声 |
作品リフィル た行 | 井伏鱒二 | 山川方夫 |
作品リフィル な行 | 後藤明生 | 山川方夫 |
作品リフィル は行 | 坂口安吾 | |
作品リフィル ま行 | 太宰治 | |
作品リフィル や行 | 宮沢賢治 | |
作品リフィル ら行 | 山本周五郎 | |
作品リフィル わ行 | 吉田篤弘 | |
作品リフィル 文庫判・スクラム製本(綴じなし)
《川柳アンソロジー みずうみ》
「ほとり」八上桐子
幼いころ、高知城の堀に落ちて溺れた。からだが橋から飛び出したとき、あっ、と思ったこと、無数の泡に包まれたことだけ覚えている。苦しかった記憶はない。以来、水がこわくて好きだ。わたしを絶対に拒まず、息もできないほど包みこんでくれる水が。みずうみを書きに、みずうみへ出かけた。水を眺めていると、あらゆる感情が小さくうすっぺらな石のようになる。投げたら水面を切って遠くまで跳ねそうなそれを、手放せずに持ちかえった。(著者より)(12頁・★1.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628022221
「宝石」山崎聡子
《短歌アンソロジーあこがれ》
子供のころ、絵本の『幸福の王子』の挿絵の、すべてを分け与えてしまって灰色になった王子の像が怖かった。眼窩は黒っぽく落ちくぼんで、その足元には息も絶え絶えのツバメがうっとりと目を閉じた姿で横たわっている。「王子とツバメは永遠に幸せになりました」と結ばれていたけれど、私はそれを疑うより前に、その永遠を自分が生涯あじわうことがないことの理不尽にほとんど焦燥していたのだ。(著者より)(12頁・★1.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628022030
「神楽坂」 矢田津世子
神楽坂で金貸し業を営む馬淵の爺さんは、夕飯を済ますと袋町の小間物屋に通う。そこの娘、お初を囲っているのだ。一方、病床で爺さんの帰りを待つお内儀さんはいよいよいけないらしい。娘のお初を馬淵家の後釜に据えたいおっ母さん。養子縁組みをはかりたい強欲な親戚たち。そして孤児院から引き取った女中の種は働き者でお内儀さんのお気に入り。そしていよいよお内儀が亡くなって……神楽坂を舞台に庶民の生活を繊細な筆で描く傑作。(48頁・★6個)
330円 (税込) [JAN]4582628021231
「夏の葬列」山川方夫
夏の真昼、男は海岸の小さな町の駅に下り立った。そこは戦争末期に疎開児童として過ごした町だった。大学を出てサラリーマンとなった男が、あれ以来はじめて訪れたその町で偶然見かけた土葬の列に、十数年の歳月が一気に消えて強烈な記憶が蘇る。それは二年上級のヒロ子さんのことだった。あの日、やはり土葬の列を見ていたふたりは艦載機の烈しい銃撃に見舞われる。そしてヒロ子さんは……教科書にも採録された山川方夫の名短篇。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022856
「ジャンの新盆」山川方夫
フランス人のジャンは、サン=ジェルマン・デ・プレのカフェで日本人から「無」の思想を教えられたのをきっかけに東洋かぶれになったのみならず「無」に化してしまおうと自殺までしてしまう。ところが昇天できずに中空でとどまったジャンは、日本に親族もなく新盆に帰る場所がない。見かねた白象は鳥となってジャンの目前に現れ、門限は今夜限りとの約束でジャンを下界に送るのだが……奇想天外な設定で日本人を逆照射する一篇。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022849
「待っている女」山川方夫
ある寒い日曜日、喧嘩した妻に取り残された男は蜜のような眠りを貪る。昼前に目が覚めた男は空腹を感じ近くの煙草屋の公衆電話から出前をとった。そこで目にした若い女は、煙草屋の小母さんによるともう二時間も前か立っているという。きっと恋人でも待っているのだろう。男は『憩』を買って部屋に戻る。煙草屋の四辻は下宿の共同便所の窓から見えた。一時間経ち、そしてまた一時間……暗くなるまで女はずっと立ち続けていた。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022863
「他人の夏」山川方夫
慎一の住む海岸の町は、夏になると都会から押し寄せる避暑客で人口が倍近くに膨れ上がり、海水浴の客たちが町を占領してしまう。そんな「休暇」の感触も慎一には他人事だった。来年、近くの工業高校に進学するために貯金をしようとガソリンスタンドでアルバイトを始めたのだ。深夜まで働いた慎一は久しぶりに静かになった海に入ったのだが、そこで出会ったのは一人泳ぐ若い女だった。海に浮かびながら交わしたふたりの会話は……。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022474
「愛のごとく(上)」山川方夫
自分にしか関心がない「私」は、誰も愛さず誰からも愛される資格がない人間だと思いながら生きている。病気で愚痴ばかりこぼす母、未婚の姉、妹と暮らす二十九歳の私は、一人になりたくて週末だけ三畳一間の下宿で過ごす。そこで小説をラジオドラマ用に脚色し、その収入で家族を養っている。ある日、昔付き合っていて、いまは友人の妻となっている女性とばったり会い、それがきっかけで逢瀬を続けるが……思わぬ結末に声を失う名篇。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022887
「愛のごとく(下)」山川方夫
自分にしか関心がない「私」は、誰も愛さず誰からも愛される資格がない人間だと思いながら生きている。病気で愚痴ばかりこぼす母、未婚の姉、妹と暮らす二十九歳の私は、一人になりたくて週末だけ三畳一間の下宿で過ごす。そこで小説をラジオドラマ用に脚色し、その収入で家族を養っている。ある日、昔付き合っていて、いまは友人の妻となっている女性とばったり会い、それがきっかけで逢瀬を続けるが……思わぬ結末に声を失う名篇。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628023402
「お守り」山川方夫
友人の関口と飲んでいた僕は「君、ダイナマイトは要らないかね」という関口の言葉にゾッとした。そして関口から聞いた話はそれ以上に奇妙な恐ろしいものだった。抽選に当って団地に住み始めた関口は、飲んで帰った夜、団地の廊下の一歩前を行く自分にそっくりな出立ちの男に会った。あろうことかその男は関口の部屋に入っていったのだ。そしてさらに驚いたことには……画一化された都会の生活の影に潜む現代人の不安を見事に描く。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022894
「蒐集」山川方夫
ニューヨークの大学の美術史教授サンバードは壺に目がない大の蒐集家だった。ある日パーティに呼ばれた同僚の家で白い壺を見かけ、その魅力に取り憑かれてしまった。が、同僚は決してその壺を譲らない、死んだら棺桶に入れるといい、実際そうなってしまった。それでも諦め切れない教授は、同僚から聞いた壺の産地である南洋の群島に赴いた。そこで人伝てになんとかつきとめた壺の作者は、年老いた巫女だったが……奇妙な味の短篇。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022559
「暑くない夏」山川方夫
病室の窓から見える群青色の空と力こぶのような雲は夏の到来を告げていた。しかしベッドに横たわる彼女には夏も冬もない。一年前の夏、意識は明瞭だが皮膚感覚がないという奇病にかかった彼女は、余命一年といわれた期限を目前にしていた。一方、あまりの蒸し暑さにハンカチで汗を拭いている彼は、わざと明るく振る舞う。一筋の涙を頰に流したまま眠りについた彼女をあとに病院を出た彼は、一瞬、暑さをまったく感じなくなって……。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022917
「あるドライブ」山川方夫
夫婦は久しぶりにドライブに出かけた。左ハンドルのシボレーを操り山道を走る夫は、この道は初めてだと思い込んでいた妻は、夫が以前この道を通ったと聞き顔色を変えた。道の先には仲間と行ったゴルフ場があり、その途中のホテルの駐車場にこの車が大学時代同じテニス部だった守谷のトヨペット・クラウンと並んで停っていたのを見たという。次第に顔を紅潮させた夫は、思いがけない行動に出る。サスペンスとアイロニーが溢れる短篇。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022924
「展望台のある島」山川方夫
女と水族館を出た私は白い鰯雲の下に横たわる江ノ島に向った。腕を絡ませる女と島を歩きながら、私はふと、別れたAという女を思った。一方的に関係を求めてくるAを持て余した私は、最後通牒を突きつけるように女との結婚を決めたのだった。「エスカー」に乗って島の頂上に向った二人は、展望台から二宮の町をみる。そこは私の疎開先であり、これから二人が暮らす町、過去と未来が交差する町だった。ある秋の一日をリリカルに描く。
(頁・★個)
330円 (税込) [JAN]4582628022573
「プールのある家」 山本周五郎
この街にあるルンペンの父子がいた。父は妙にインテリでいつも息子相手に蘊蓄を垂れ、そして子はまた絶妙な相槌を打つのだった。ただ彼らの間に母の話題は決して出なかった。二人がもっぱら夢見心地で語り合うのは、彼らが建てるべき家の話だった。ある日、残飯のしめ鯖にあたったのか、子が死んだ。放心して街を歩く父親の頭に、死ぬ間際に呟いた子の声がこだまする。「プールを作ろうよ」。思わずむせぶ周五郎短篇の真骨頂。(40頁・★5個)
330円 (税込) [JAN]4582628021163
「わたくしです物語(上)」 山本周五郎
美濃国多治見の国家老、知次茂平の目下の心配事は、後見人を自ら任じた親友の一粒種、考之助だった。気弱で取り柄はないがとにかく美男。それが災して見かけ倒しとの定評が藩内に立ってしまった。それを挽回すべく使番を任じ、所帯を持てば人も変わるはずと固辞するところどうにか婚約までは取り付けた次第。そんな考之助がある日を境に、何故か藩内で起きた粗相の咎をすべて自分で引受けるようになった……思わぬ展開に心が温まる傑作人情話。(32頁・★4個)
330円 (税込) [JAN]4582628021170
「わたくしです物語(下)」 山本周五郎
美濃国多治見の国家老、知次茂平の目下の心配事は、後見人を自ら任じた親友の一粒種、考之助だった。気弱で取り柄はないがとにかく美男。それが災して見かけ倒しとの定評が藩内に立ってしまった。それを挽回すべく使番を任じ、所帯を持てば人も変わるはずと固辞するところどうにか婚約までは取り付けた次第。そんな考之助がある日を境に、何故か藩内で起きた粗相の咎をすべて自分で引受けるようになった……思わぬ展開に心が温まる傑作人情話。(36頁・★4.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628021187
「落ち梅記(上)」 山本周五郎
幼友達の金之助と半三郎は双俊と呼ばれ、藩主の世子・亀之助の学友として江戸邸で起居を共にするほどだった。長じて異学を教えた咎で身をもち崩し酒と賭博に耽る半之助と、父が倒れた日から思わぬ風雪に巻き込まれる金之助。その二人の間にあって運命に翻弄される金之助の幼馴染・由利江。藩を大きく揺るがす政争の中で輝きを放つ愛と友情……大河小説に匹敵する読後感と期せずして涙を唆られるリリシズム。山本周五郎の魅力を十全に伝える名篇。(40頁・★5個)
330円 (税込) [JAN]4582628021194
「落ち梅記(下)」 山本周五郎
幼友達の金之助と半三郎は双俊と呼ばれ、藩主の世子・亀之助の学友として江戸邸で起居を共にするほどだった。長じて異学を教えた咎で身をもち崩し酒と賭博に耽る半之助と、父が倒れた日から思わぬ風雪に巻き込まれる金之助。その二人の間にあって運命に翻弄される金之助の幼馴染・由利江。藩を大きく揺るがす政争の中で輝きを放つ愛と友情……大河小説に匹敵する読後感と期せずして涙を唆られるリリシズム。山本周五郎の魅力を十全に伝える名篇。(40頁・★5個)
330円 (税込) [JAN]4582628021200
「「青べか」を買った話」 山本周五郎
著者が若い頃に住んだ浦粕(現・浦安)を舞台に描いた自伝的名作『青べか物語』の冒頭に置かれた文章。「べか舟」とは海苔採りに使う平底舟のこと。この小説を象徴する「青いべか舟」を芳爺さんから買った経緯を綴っている。芳爺さんは街でいちばん大きな貝の缶詰工場の倉庫番をしている老人で、狡猾で欲深いがそれゆえにユーモラスで人情味溢れる庶民の姿を体現する人物。著者の巧妙な筆致は著者と対象との距離感をも絶妙に表している。(16頁・★2個)
330円 (税込) [JAN]4582628021224
「へちまの木(上)」 山本周五郎
旗本の三男坊で、養子に出されそうになり家出した房二郎は、小網町の居酒屋で知り合った瓦版記者、木内桜谷の口利きで同じ職場、文華堂の見習いとなった。まだ世間ずれする前の二十五歳。覚えた酒に泥酔もし、これも桜谷の紹介で入った下宿の美しい後家、おるいに何かと世話を焼かれる。文華堂の主人、西川文華は女房の尻に敷かれたふりをして金を引き出す吝嗇家。ある日、給料の値上げを訴えた桜谷は解雇されてしまう……江戸情緒の中に描かれた人間模様。(40頁・★5個)
330円 (税込) [JAN]4582628021217
「へちまの木(下)」 山本周五郎
旗本の三男坊で、養子に出されそうになり家出した房二郎は、小網町の居酒屋で知り合った瓦版記者、木内桜谷の口利きで同じ職場、文華堂の見習いとなった。まだ世間ずれする前の二十五歳。覚えた酒に泥酔もし、これも桜谷の紹介で入った下宿の美しい後家、おるいに何かと世話を焼かれる。文華堂の主人、西川文華は女房の尻に敷かれたふりをして金を引き出す吝嗇家。ある日、給料の値上げを訴えた桜谷は解雇されてしまう……江戸情緒の中に描かれた人間模様。(40頁・★5個)
330円 (税込) [JAN]4582628021286
「瓶詰地獄」 夢野久作
島の海岸に流れ着いた三本の麦酒瓶。赤い蝋で封をされたその瓶の中には、船で遭難し、南の無人島に流れ着いた幼い兄妹の、健気ながら身も震えるメッセージが入っていた。幸いその島は年中夏のようで、豊かな食物が充ち満ちていた。二人は力を合わせて環境を整え快適な生活を築いていったが、月日が経つにつれて美しく艶やかに育っていく妹の肉体に、兄は悩まされるようになっていく。そしてその得体のしれない感情は妹も同じだった……最後まで「人」でいることに踏みとどまろうとする二人の運命は?(20頁・★2.5個)
本体価格:300円 [JAN]4582628021576
「微笑(上)」 横光利一
作家梶のもとに現れた、栖方という俳号を持つ青年科学者。彼が開発中だと話す殺人光線は、敗色濃厚の戦局を打開する希望の光となり得るものでした。どこか狂気をはらむ彼の微笑に惹かれる梶に、栖方は発狂しているという憲兵からの知らせが。そして敗戦。殺人光線を開発していた若き科学者が敗戦の報を聞いて狂死したという新聞記事を読んだ梶は、行方不明の栖方の死を確信しますが……狂気と正気のはざまをたゆたう横光利一の遺作。(上巻)(28頁・★3.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628020203
「微笑(下)」 横光利一
作家梶のもとに現れた、栖方という俳号を持つ青年科学者。彼が開発中だと話す殺人光線は、敗色濃厚の戦局を打開する希望の光となり得るものでした。どこか狂気をはらむ彼の微笑に惹かれる梶に、栖方は発狂しているという憲兵からの知らせが。そして敗戦。殺人光線を開発していた若き科学者が敗戦の報を聞いて狂死したという新聞記事を読んだ梶は、行方不明の栖方の死を確信しますが……狂気と正気のはざまをたゆたう横光利一の遺作。(下巻)(36頁・★4.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628020210
「春は馬車に乗って」 横光利一
病床に伏せる妻を看病する夫。彼女の言葉は日ごとに刺々しくなり、彼の言動を咎めるようになる。耐えぬ口論を彼は「檻の中の理論」と称し、妻は死の領域に繫がれていると思うことで平静を保とうとする。しかし、病魔は彼女の身体を蝕んでゆき、好物の鳥の臓物をせがむ代わりに、彼に聖書の朗読を求める。死の訪れを自覚した彼女は、自らの骨の行方を思い滂沱する。やがて、スイートピーの花束がふたりに春の訪れを告げる——。(28頁・★3.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628021248
「明日、世界が終わるとしたら」吉田篤弘
上京し、薬剤師をやっているちょっと変わった伯母さんの家に居候をするようになって6年。三十路も半ばで職も失い、いつお嫁にいくつもり? と美々は繰り返し伯母に聞かれるのだった。そんな折、先に東京に来ていた幼なじみの直人から連絡があった。これから新幹線に乗って、故郷の町にずっと昔からあるステーキ・ハウス〈ハシモト〉にビフテキを食べに行こうという。果たしてまだあのお店はあるのか? ハートウォーミングなラブストーリー。(28頁・★3.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628022139
「黒砂糖」吉田篤弘
今は亡き伊吹先生の本職は世界でただ一人のファンファーレ専門の作曲家だったが、晩年に近くなって都会の森が衰えているのを愁い、またこよなく夜を愛することから、夜になると黒い上着を纏い、ポケットに黒砂糖をしのばせて「月夜に種蒔く人」となった。〈黄金アパート〉の中庭で教えを乞うた僕も、師を継承して夜な夜な町に繰り出していたのだが、ある夜、どうやら異性の同士がいることに気がつくのだった……幻想と詩情に溢れる名篇。(28頁・★35個)
330円 (税込) [JAN]4582628022122
「永き水曜日の休息」吉田篤弘
わたしのあだ名は「デコ」。図書館の司書をしている。その広い額に“惚れた”と言ってくれた夫がこの世を去ったのは2年前の水曜日で、図書館の休館日だった。それ以来、水曜日の休日が恐いくらい終わりのないように感じられてしまう。職場でもっとも気の合う〝朝子二号〟にそのことを相談すると、伯母である「心の先生」を紹介される。先生の声はわたしが心のよすがとしている『曇り空』という本から聞えてくる声にとても似ていたのだった。(32頁・★4個)
330円 (税込) [JAN]4582628022115
「海の床屋」吉田篤弘
映画の買付のため三年に一度、海辺の小さな町の映画祭を訪れる「私」。五度目になる今年は不作かと思った矢先に出会った『ある小さな床屋の冒険』という映画が、子どものころ「海の家」で過ごした夏の思い出を引き寄せる。眼鏡を海に落としてしまい、代わりに借りた男ものの眼鏡。「海の床屋」のホクトさん。海辺のホテルのマネージャーの息子、ユウジ君。その眼鏡は実はユウジ君のものなんだ、とホクトさんが語る……霞んだ記憶にふと蘇る物語。(32 頁・★4個)
330円 (税込) [JAN]4582628022108
「水晶萬年筆」吉田篤弘
「夥」という珍しい名をもつオビタダは、光沢のあるつるりとした紙に刷られた雑誌にイラストを描いて生活の糧を得ていたが、本当はざらざらとした濁点のあるものに惹かれていた。そんなオビタダが恋をした。相手は十字路の角にある〈つみれ〉というおでん屋のつみれさん。彼女の父も絵描きで、ある日、一枚だけ残っている父の絵を見に行こうと誘われるが……そこはかとなく漂うペーソス。幻想の町で起こるリアルな物語。(28頁・★3.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628022092
「マリオ・コーヒー年代記」吉田篤弘
初めてマリオの店を訪れたのは「僕」がまだ17歳のとき。「世界の真ん中でコーヒーをつくる男」と勝手に名づけたマリオはほんとうに美味しいミルク・コーヒーを作るのだった。22歳になって図書館につとめ「私」と名のるようになると、今度はT百貨店の地下に出来たマリオの店に通うようになる。三十代の終わりころ後輩ができた「おれ」。50を過ぎ仲間を募って〈小さな楽団〉をつくった「私」。いつもマリオの店は人生の隣にあった。(28頁・★3.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628022085
「針がとぶ」吉田篤弘
伯母さんの死は「わたし」にとって初めての身近な人の死だった。若いときから詩人・翻訳家として認められていた伯母さん。生涯をひとり身で通した伯母さんは〈北極星のように美しい人〉だった。家族から遺品整理を任されたがなかなか遺品を捨てることができないわたしは、その中にビートルズの「ホワイト・アルバム」を見つける。父の部屋にあった古いレコード・プレーヤーのターンテーブルに載せたB面の最後の曲には……。(24頁・★3個)
330円 (税込) [JAN]4582628022078
「飛行機から堕ちるまで」 吉行エイスケ
ここは門司市、東川端の卑猥な街。ホテルの踊場で、踊り狂う人々。列車は疾走し、ボートは夜の河岸を離れ、人々の欲望は興奮と色欲の坩堝に溺れる。F飛行士が乗る飛行機は、午前八時に岡山練兵場を出発した……。〈僕〉が目を覚ますと、広間では相変わらずチイク・ダンスに狂熱する人々の群れ。ダダイスムに傾倒した吉行エイスケが紡いだ光景は、果たして詩か物語か。目眩く言葉の洪水に、我々の秩序は揺がされる。(12頁・★1.5個)
330円 (税込) [JAN]4582628021255