【書評・紹介】

2020年12月1日付の鎌倉朝日新聞に庵原高子著『商人五吉 池を見る』の紹介記事が掲載されました。


2020年12月01日 鎌倉朝日新聞 12月1日号 第501号

新刊「商人(あきんど) 五吉 池を見る」

庵原高子 著

鎌倉在住の作家・庵原高子さんが自身の父親をモデルに明治・大正・昭和を生き抜いた商人の生涯を描く長編小説。 主人公の五吉は愛知県知多郡にある庄屋の三男坊。23歳で日露戦争に従軍し、ロシア軍との「得利寺会戦」で重症を負いながらも生還。切断を免れた右腕に算盤を携え上京する。神田生まれの妻とともに第一次世界大戦の好景気に乗るべく羅紗卸商「知多屋」を麹町に開業するも、関東大震災、昭和恐慌、軍靴の音鳴り響く二・二六事件から太平洋戦争へと「虫が這うように」時勢は暗転。 混乱の中、五吉は「戦争は儲からん」と、算盤を武器に妻と7人の子どもたちを戦火から守りながらキリスト教の中に次第に光を見い出していく。 結婚する息子のために「切支丹屋敷」と呼ばれるいわくつきの土地を安く手に入れ、庭に念願の「池」を作る五吉。「皇居の御濠より、戦争の匂いのしない池が好きだ」とつぶやく主人公が水面に映し見たものは…。 商売第一で父権をかざしながらも女性への敬慕の念を湛えた五吉から、暗い時代をしたたかに生きた庶民の力強さが伝わる。当時の地図の上に池を配した装丁デザインにも妙あり。
3800円(税別)、田畑書店  03・6272・5718