おとなの『のはらうた』をめざして
〈ポケットスタンダード〉シリーズについて
まさか出版社を継ぐことになろうとは思いもしなかったはるか以前のこと、娘の本棚にあってずっと気になっていた本がありました。それは童話屋から出ている工藤直子さんの『のはらうた』のシリーズでした。文庫判で上製、本表紙はPP貼りでカバーなし、頁を開くと二色刷りで、文字組みは実に瀟洒……もし自分で出版社を持つようなことがあったら、〈大人のための『のはらうた』〉を作ってみたい。それが長年の夢でした。
『これは水です』のことを訳者の阿部重夫さんから伺ったとき、真っ先にそれが頭をよぎりました。難解なポストモダン文学の旗手として知られるウォレスが、これから社会に出ていこうとしている若者に、現実を生きていく意味を実に率直に、平易な言葉で語っている……そしてそのテキストを読んで、この〈ポケットスタンダード〉のシリーズ化がほぼ固まりました。
2冊目、ジェームズ・アレンによる自己啓発の古典『人は考えたとおりの人間になる』から3冊目は『正法眼蔵』の冒頭「現成公案」を現代語に置き換えた『わたしを生きる』、さらに若山牧水の散文集『エッセンシャル牧水』と『樹木とその葉』……ここに来て5冊が揃ったわけですが、改めてこのシリーズのコンセプトを考えると、古今東西を問わず、
「生涯その人の本棚に残り、読み返すたびに常に新しい発見がある小型本」
「生きていくことに、言葉が直截に関わっている小型本」
ということになりましょうか。
生涯本棚に納まるために選んだ判型、肌身離さず持ち歩いても傷まず、また常に身近に置きたくなるような美しい造本と装丁……シリーズに必須なのは、内容のみならず本づくり全体を通しての〈外装〉でもあります。
今後、翻訳物、書下ろし、アンソロジーなど、編集の手法は異なれど、上記のコンセプトを外さない「緩いシリーズ」として、この〈ポケットスタンダード〉を続けていきたいと考えています。
図書新聞【3423号、11月16日号】より 田畑書店社主 大槻慎二