昭和34年、「降誕祭の手紙」で芥川賞候補になったとき、同期候補には吉村昭氏や金達寿氏、そして山川方夫氏がいた。その山川氏に師事し、三田文学に「地上の草」を連載していた日々……その頃から半世紀以上、戦後の激動期を家庭人として過ごしながらも、ふつふつと漲る文学への思いを絶やさずに生き続けた人生——代表作二作を全面的に改稿し、なおかつ近作の短編からよりすぐった4篇と、山川方夫氏の思い出を綴った1篇を収める、著者畢生の自選作品集。
降誕祭の手紙/地上の草
庵原高子自選作品集
庵原高子
発売日:10月31日
四六判上製・カバー装/520頁
価格:4,180 円(税込)
ISBN978-4-8038-0355-6
庵原高子(あんばら・たかこ)
1934年、東京都千代田区生まれ。白百合学園高校卒。後に通信教育課程にて慶應義塾大学卒業。「三田文学」誌発表の「降誕祭の手紙」が昭和33年下期の芥川賞候補作となる。著書に『姉妹』(小沢書店、1997年)、『表彰』(作品社、2005年)、『明日は晴れる』(冬花社、2010年)、『海の乳房』(作品社、2013年)がある。
書評
2019年2月16日 図書新聞3387号 女流の時代の早すぎた女性作家の記録――文学史の里程標となる貴重な作品集 (評者:田中和生)
目次
第一部
降誕祭の手紙
眼鏡
地上の草
第二部
源平小菊
海抜五・五メートル
夏の星
かきつばた
日々の光――山川方夫 自筆年譜
あとがき
本文より
(山川方夫氏に)本格的に小説の書き方を指導して頂くようになったのは、(昭和)三十六年「地上の草」という長編を書き上げ、六ヶ月間「三田文学」に連載する、と決まった時だ。
一回掲載分をおよそ六十枚にまとめて、読んでもらう。そして細かいところにチェックが入る。そこを直してまた見てもらった。
山川氏のご指導は日に日に厳しくなった。
例えば、主人公国子の母親が、「何もかも戦争のせいだ」と言って、嘆く場面について。 「書き手として、何もかも戦争のせいにする、という姿勢はよくない」 と言われた。
私は一瞬絶句したが、すぐにその言葉の意味を探った。
「主人公の生まれ育った土壌を、しっかり書きなさい」 という言葉も心に残っている。
(「日々の光」より抄録)