ドローンが赤く光った。
殺意か警告か――不気味な羽音とともに無数に湧きだす透明な〈幽体〉の軍団。
大戦敗北の屈辱に、ドイツ軍の精鋭が幻視した黙示録は、現代の恐怖となる。
2つの世界大戦を通して地獄を見たドイツ最高峰の知性「20世紀のゲーテ」が、およそ半世紀以上も前に《現代のディストピア》を幻視していた!
ユンガーは第一次大戦に出征、死屍累々の惨状からナチス台頭を予見し、第三帝国では森に隠遁して昆虫採集に明け暮れ、戦時はヒトラー暗殺計画の国防軍幹部に宛て極秘回覧文書を起草した。見るべきほどのことは見つ。戦後に洞察したのは恐るべきオートマトン(自動機械)の未来だった。
本書は「ガラスの蜂」全訳に、詳細な訳注( 全269項目90ページ )、物語の背景や現代的意義を説く解説「ドローンは Seyn (存在) の羽音を鳴らす」が付きます。
ガラスの蜂
エルンスト・ユンガー (著/文)
阿部 重夫 / 谷本 愼介 (訳)
2019年 12月 12日 発売
価格 3,080 円(税込)
ISBN 978-4-8038-0367-9 Cコード C0097
四六判 仮フランス装 320ページ
縦 196mm 横 134mm 厚さ 20mm 重さ 360g
書評掲載情報
2020年03月14日 図書新聞 3440号、3月21日号 評者: 糸瀬龍
目次
ガラスの蜂 3
【訳注】 209
〈訳者解説〉ドローンは Seyn (存在) の羽音を鳴らす 299
著者プロフィール
エルンスト・ユンガー (著)
ドイツの思想家、小説家、ナチュラリスト、軍人。1895年、ハイデルベルクのプロテスタント家庭に長男として生まれる。1914年、第一次世界大戦に志願兵として出征。西部戦線で戦い、1918年プロイセンの最高勲章プール・ル・メリットを最年少で受賞した。1920年、戦記の傑作『鋼鉄の嵐』を出版。その後、賠償に喘ぐ敗戦国ドイツの復興をめざす〈保守革命派〉に身を投じ、マルティン・ハイデガーやカール・シュミットらの共感を得た。ナチス政権誕生を予見する『労働者』を書いたが、ヒトラーが独裁を確立するや距離を置き、森に隠棲して昆虫採集などに没頭する。1939年に書いた小説『大理石の断崖の上で』が後に〈抵抗文学〉として評価される。同年、国防軍に復帰してパリに進駐。戦後の欧州再生ビジョンを記した秘密文書「平和」は反ナチスの軍幹部に回覧され、1944年7月のヒトラー暗殺計画の支柱となった。戦後は「20世紀のゲーテ」と呼ばれ、日記、エッセイ、小説、往復書簡など旺盛な執筆活動で1982年にゲーテ賞を受賞した。1985年、ユンガーの名を冠した昆虫学賞が創設された。1998年、102歳で死去。
阿部 重夫 (アベ シゲオ) (訳)
1948年、東京生まれ。1973年、東京大学文学部社会学科卒、日本経済新聞入社。社会部、整理部、金融部、証券部、論説委員を経てロンドン駐在。1998年退社、2006年に月刊誌FACTAを創刊、病を得て19年8月退社。日本新聞協会賞を1992年と94年に受賞。著書に『イラク建国』(中公新書)など。訳書にP・K・ディック『市に虎声あらん』(平凡社)、『ジャック・イジドアの告白』(早川書房)、D・F・ウォレス『これは水です』(田畑書店)など。
谷本 愼介 (タニモト シンスケ) (訳)
1950年大阪生まれ。1977年、東京大学大学院博士課程中退(独文学専攻)。神戸大学名誉教授。主な業績に『ニーチェ全集』〈第1期第5巻〉(共訳、白水社)、『ワーグナー事典』(共編著、東京書籍)がある。