これから出る本[9月]

 

 田畑書店9月の新刊は藤本寿彦著「幸田文 「台所育ち」 というアイデンティティー」です。
 父の死が国葬になる……そんな特殊な立ち位置から「露伴の想ひ出屋」として作家生活をスタートせざるを得なかった幸田文が、父・露伴の傘の下を脱し、真にオリジナルな自らの文学を確立していく過程を、各作品を丹念に読み込むことで、本書はつぶさに論じています。
「父から授かった厳しい躾が作家・幸田文を生んだ」という凡百のありきたりな作家論を超えて、「台所育ち」という特異なキーワードを用い、幸田文が露伴の影響と闘いながらいかにして自らのオリジナルな〈セルフイメージ〉を摑んでいったのか、を明らかにします。
「台所育ち」の原像をつくった『あとみよそわか』。作家・幸田文を生き直す契機となった『終焉』から、『流れる』、『おとうと』へと続く作品群。そしてポスト結核小説の嚆矢(こうし)となった『闘』から、「台所育ち」の豊かな感性が自然に触れる地点から生まれた『木』や『崩れる』などの名作を、あくまでもテクストに当たることで論じ尽くした本書は、これから幸田文を読もうとする読者にとっても、格好の「幸田文入門」となっています。